年を取るとどうしても肉体的に衰えが生じてきます。見た目ではシワやシミ、たるみ、そして白髪もですね。
なぜ若いころはあんなに真っ黒だった黒髪が、1本また1本と白髪になっていくか。そのメカニズムは長年不明でしたが、東京医科歯科大学難治疾患研究所の西村栄美教授(難治病態研究部門幹細胞医学分野)らの研究グループが2002年以降、立て続けに毛髪に関する研究成果を発表して、仕組みは解き明かされつつあります。
西村教授の研究はまだまだ継続中ですが、研究成果は白髪だけでなく、再生医療、アンチエイジングへの応用も期待されています。今回は、西村教授らの研究成果について紹介したいと思います。
コピー(複製)が作れなくなる!
西村教授が発表した2009年6月5日付のプレスリリースによれば、
黒髪のもとになる色素幹細胞がゲノム損傷ストレスにより分化成熟し自己複製しないため幹細胞が枯渇し白髪になる
のだそうです。順を追ってかみ砕いていきます。
- 幹細胞は色々な機能を持つ細胞に変身(分化)できる能力と自己複製を作る能力を併せ持つ
- 黒髪のもとになる色素幹細胞は毛嚢(もうのう)にあって、もちろん色素細胞にもなれますし、自分のコピー(複製)も作れます
- コピーを作りつつ、自分は色素細胞に変身(分化)するというサイクルが正常なうちは黒髪キープ
- ところが、この色素幹細胞にゲノム損傷ストレス(ぶっちゃけるとDNAレベルでの傷)が起きると複製作成能力がなくなる!
- 複製をつくれないまま、幹細胞は色素細胞になるので、結果、幹細胞が足りなくなる! 黒髪キープサイクルの崩壊…。
じゃなぜ傷つくのか?
色素幹細胞にゲノム損傷が起きることでコピーが作れなくなるから白髪ができる。この流れは分かりました。じゃ傷が付かないように気を付ければ、黒髪復活とはいかなくても白髪を増やさずに済むのでは?と思えてきます。
ゲノム損傷の原因としては、加齢やストレス、紫外線、たばこ、活性酸素などが候補に挙がっていますが、個体差が大きい複合要因ではないかという考え方もあり、毛髪に関してはもう一歩進んだ研究が待たれています。
ただ、今回の西村教授の研究では人間の「早老症原因(ATM遺伝子)」が、幹細胞の質を監視して、幹細胞が枯渇しないように機能していることも判明していていますので、このATM遺伝子の解析が進めば、幹細胞の機能調整により、黒髪キープサイクルを少しでも維持できるという可能性は高いともされます。
黒髪に戻る可能性はゼロではない!
西村教授らの研究チームの成果はめざましく、もともと色素幹細胞を発見(2002年)したもの同チームですし、色素幹細胞が枯渇すると白髪になるメカニズム(2005年)も見いだしていました。
さらに筆者の姉妹ブログ「禁煙を成功させる超ヒント集」でも記事にしていますが薄毛(はげ)と白髪のカギを握るのが「17型コラーゲン」にあるという画期的な研究も発表されています。
今すぐに黒髪に戻すというのは現状では厳しいですが、将来的には色素幹細胞の損傷を防いだり、17型コラーゲンの生成を促したりする方法が解明されれば、サプリや飲み薬、塗り薬などで毛髪トラブルを回避できるようになるかもしれませんね。